東京高等裁判所 平成12年(行コ)57号 判決 2000年6月29日
控訴人
矢野長吉
右訴訟代理人弁護士
鈴木義仁
被控訴人
大和税務署長 大嶋幸吉
右指定代理人
原道子
同
木上律子
同
川口信太郎
同
古瀬英則
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
一 控訴の趣旨
原判決を取り消す。
被控訴人が控訴人に対して平成四年三月六日付けでした次の処分を取り消す。
1 昭和六三年分の所得税更正処分のうち納付すべき本税額七万五八〇〇円を超える部分及びこれに係る同年分の過少申告加算税賦課決定処分の部分
2 平成元年分の所得税更正処分のうち納付すべき本税額三七万四八〇〇円を超える部分及びこれに係る同年分の過少申告加算税賦課決定処分の部分
3 平成二年分の所得税更正処分のうち納付すべき本税額五九万四八〇〇円を超える部分及びこれに係る同年分の過少申告加算税賦課決定処分の部分
二 事案の概要
次のように当審における控訴人の主張を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要等」のとおりであるので、これを引用する。
(当審における控訴人の主張)
1 控訴人は、本件各係争年分の所得税について、義明夫妻に対する給与を青色事業専従者として誤って申告したが、平成三年分以降は、義明夫妻に対する給与を人件費として経理処理し、事業専従者として申告していない。
2 義明夫妻は、本件各係争年分もそれ以降の分も、控訴人の経営する日本そば店から得た給与所得について確定申告をしている。義明一家は、右給与によって生活をしている。
3 被控訴人は、控訴人の平成三年分以降の確定申告及び義明夫妻の確定申告を問題としていないから、控訴人と義明夫妻が「生計を一にする親族」ではないことを承認していることを示している。
三 当裁判所の判断
当裁判所も、控訴人の請求を棄却すべきものと判断する。その理由は、次のように、原判決を訂正し、当審における控訴人の主張に対する判断を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」の「第三 当裁判所の判断」のとおりであるので、これを引用する。
(原判決の訂正)
八〇頁五行目の「また」から八行目までを次のとおり改める。
「なお、証人義明の証言によると、店舗併用住宅部分の水道のメーターは一つであるが、義明が控訴人との間で店舗併用住宅の義明夫妻の居住部分に係る水道使用料金と店舗部分の水道使用料金の清算について話し合ったことがないことが認められ、右事実からしても、控訴人が店舗併用住宅全体の水道料金を負担していたことが明らかである。また、乙第一一号証によると、右電気供給契約は、住宅について「ヤノチョウキチ」名義、住宅及び冷暖房商業についてそれぞれ「マルヤソバテンヤノチョウキチ」名義で締結されていることが認められるが、義明が義明夫妻の住居部分に係る電気料金を負担したことを示す明確な証拠もない以上、控訴人が右電気料金を負担していたと認めるのが相当である。
ところで、甲第一六〇、一六七号証、証人義明及び同洋子の供述中には、控訴人夫妻及び二女マサ子の生活費は控訴人所有の貸家からの家賃収入によってまかなわれ、義明一家の生活費は控訴人が経営するそば店から得る「給料」によってまかなわれていたとの部分がある。しかしながら、右の給料の支払及びその支給額を証明するようなものはない。また、右証拠中には、控訴人のそば店の売上げから義明夫妻の給料を差し引き、残ったものを控訴人に渡していたが、実際には、控訴人にそば店の純利益として渡すものはなかったとの部分もある。そうすると、控訴人は、そば店の利益から決められた額を給料として義明夫妻に支給することなく、義明夫妻にそば店の利益を給料名目で生活費等として費消することを許していたとみることができる。」
(当審における控訴人の主張に対する判断)
1 被控訴人は、控訴人及び義明夫妻がそれぞれ当審における控訴人の主張1、2のとおり確定申告をしていることについて明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。
2 所得税法五六条の規定は、前記のとおりであるが、その例外として、青色申告の場合には、事業専従者に支給した給与等のうち労務の対価として相当であると認められるものは必要経費とされ(同法五七条一項)、また、いわゆる白色申告の場合には、事業専従者について配偶者とそれ以外の者とに分けて一定の金額(青色申告の場合よりも低額)を必要経費とみなすものとされている(同条三項)。
控訴人は、本件各係争年分について、義明夫妻を青色事業専従者として確定申告をした(乙第二一ないし二三号証。なお、控訴人が誤って青色事業専従者として申告したとは認められない。)。しかし、控訴人は、青色申告の承認を取り消されたため、平成三年分以降は、青色事業専従者として申告することができず、前記のような申告をした(白色申告では、事業専従者について必要経費とされる金額が低いため、事業専従者としなかったものと推認される。)。そして、前記の事実関係に照らすと、平成三年分以降の義明夫妻に対して支給した給料を必要経費として申告したからといって、被控訴人において、本件各係争年分について控訴人と義明夫妻が「生計を一にする親族」ではないことを承認したということにはならない。
3 したがって、控訴人の右主張は採用することができない。
四 よって、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 矢崎秀一 裁判官 原田敏章 裁判官 春日通良)